「 相互主義が成り立たない中国に国土を買われるままにしておくのか 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年5月28日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 888
5月13日、中国政府が都心の一等地、約5,677平方メートル(約1,720坪)を一般競争入札で落札していたことが判明した。衆議院外務委員会で自民党の小野寺五典議員の質問に松本剛明外相は「適法に取得したことに反対する理由はない」と答えたが、はたしてこの種の近視眼的対応でよいのか。
中国政府が入手したのは国家公務員共済組合連合会(KKR)所有の、現在の中国大使館約3,900坪の土地に隣接する港区内の物件だ。隣には在日各国大使館中最も美しいと賞賛されるドイツ大使館の庭園があり、そのまた近くには有栖川宮記念公園が広がる。中国政府は文字どおりの都心の超一等地に計5,620坪の土地を得たのだ。
松本外相は、中国政府から現在の大使館は老朽化し、手狭だとしてKKRの土地購入の希望があったこと、外交に関するウィーン条約第21条で大使館などの設置には便宜を図らなければならないことを強調し、条約の趣旨にのっとって対処したと語る。
が、「ウィーン条約第一一条には施設あるいはその大使館員の数などは『合理的かつ正常』と認める範囲内でなければならないと明記されている」と小野寺議員は指摘。今回の取得はその要件を満たすのかとただしたわけだ。
中国政府は現在、新潟および名古屋でも領事館用の土地を取得しようと躍起である。新潟では新潟駅から500メートルの約5,000坪、名古屋では名古屋城近くの南向きの約1万0,200坪の一部が有力候補地として挙げられた。いずれも国・公有地で都心の一等地だ。
貴重な国土を中国政府に売る理由として、土地を所有する国や県は、外相と同じくウィーン条約を掲げるが、新潟や名古屋では強い反対が巻き起こった。住民の署名運動で国・公有地の売却は、現時点では止まっている。そんなところに、今度は東京都心の広大な一等地が中国政府に売却されたのだ。
今回は民有地であり、公開入札という手続きによったと外務省は言う。しかしウィーン条約は、大使館の設置は土地購入も含めて、接受国(日本)の事前同意が必要で、しかも規模は適正でなければならないと定めている。
条約で規模の適正さの重要性がうたわれたのは、大使館や領事館は相互主義に基づいて、登記や登録に関する税も、固定資産税も基本的に無税だからであろう。この取り決めはそれなりに意味があるが、中国は例外だ。なぜなら国土は一坪たりとも外国には売らないのが中国であり、そもそも、相互主義自体が成り立たないからだ。
日中両政府は現在、互いに大使館のほかに領事館6ヵ所を開設している。日本の在中国公館がすべて賃貸なのに対して、中国公館は前述した新潟と名古屋を除いて土地も建物もすべて中国が取得した。再度指摘すれば、それらは無税なのだ。相互主義とは名ばかりで、実態は片務主義である。
「日本側は都心の一等地をどんどん買われ、中国の日本大使館は借用ということであれば、いったい相互主義といえるのか。これは多くの日本人が感じる疑問であります」
小野寺議員の憤りは、国民ほぼ全員の憤りである。松本外相は答えた。
「条約にいわれている『適切、合理的(規模)』という部分についてはしっかりとそのようにしなければならないということは、ご指摘のとおりだと思います」
まるで他人事のようだ。政府がこうもやすやすと中国政府への一等地売却を許すのを見て、新潟や名古屋で売却をかろうじて止めた国民はどれほど落胆することか。いま、中国資本は都市部の土地だけでなく、山林や森など、水源地の取得にも狂奔中だ。外国に売却した国土はおそらく二度と戻ってこない。政治家は党派を超えて日本国を守ることの基本が国土の保持にあることを共通認識とし、早急に規制のための法整備に取りかからなければならない。